第一章:「表の世界」の通貨、その名は暗号資産
1-1. 暗号資産とは何か? - 『ジェネシス・キー』の断片
君が我々の世界で『ジェネシス・キー』と学んだ概念。それは、表の世界では「暗号資産(または仮想通貨)」と呼ばれている。これは、WMOの『中央紡績局』が発行する法定通貨(円やドル)とは根本的に異なる存在だ。特定の国家や銀行といった中央管理者を必要とせず、インターネット上で個人と個人が直接価値を交換できる仕組み。それを支える技術こそが、我々が『不変の鎖』と呼ぶ「ブロックチェーン」である。
法定通貨が、WMOの都合で無限に発行され価値が薄められていく「負債の記録」であるのに対し、多くの暗号資産は、発行上限がプログラムによって定められている。これは、誰にも価値を盗まれることのない、君自身の主権が及ぶ「真の資産」となり得る可能性を秘めている。
1-2. ビットコイン - 表の世界の「プロメテウス」
2009年、サトシ・ナカモトと名乗る正体不明の人物によって、最初の暗号資産「ビットコイン」が創造された。それはまさに、我々の物語における「プロメテウス」がWMOに反旗を翻した行為に等しい。ビットコインは、歴史上初めて、いかなる権力者の許可も必要としない、グローバルな価値の保存・交換手段を人類にもたらした。発行上限は2100万枚。この数学的な希少性こそが、WMOの無限発行という錬金術に対抗する、我々の最初の武器である。
1-3. ブロックチェーン - 現実世界の『不変の鎖』
ビットコインを支える中核技術が「ブロックチェーン」だ。これは、全ての取引記録を「ブロック」と呼ばれる箱に入れ、それを時系列に沿って「チェーン(鎖)」のように繋いでいく技術である。一度繋がれたブロックを改竄することは、天文学的な計算能力を必要とするため、事実上不可能だ。これにより、銀行のような中央の管理者がいなくても、取引の正しさがネットワーク全体で保証される。これこそ、我々が目指す「支配者なき信頼」の具現化に他ならない。