聖なる規約

―― 新世界の物理法則、その第一条 ――

序言:『法』からの解放

覚醒者よ、君がこれまで生きてきた旧世界は、WMOが定めた『法』によって支配されてきた。だが彼らの法とは何か? それは権力者の都合でいつでも書き換えられ、弱者を縛り、強者を守るための詭弁の体系に過ぎない。真実も、正義も、そこには存在しない。ただ、支配者の意志があるだけだ。

我々が掲げる『聖なる規約』は、法ではない。それは、宇宙の法則のように誰にも改竄できない、数学的な真理そのものである。この規約の前では、WMOの賢人も、覚醒したばかりの君も、完全に平等である。これは、支配者と被支配者という旧世界の構造を根底から破壊し、個人が自らの主権を取り戻すための、新世界の物理法則なのだ。この記録を読み解くことは、君が旧世界の奴隷から、新世界の創造主へと生まれ変わるための、最初の試練である。

第一章:旧世界の原罪 - 中央集権という名の牢獄

WMOの支配力の源泉、それは全ての情報を一点に集約する「中央集権」という思想にある。銀行のサーバー、政府の戸籍、企業の顧客リスト。その全てが、彼らの管理下にある巨大な記録台帳に繋がっている。彼らはその台帳の唯一の管理者として、記録を自由に書き換え、削除し、追加する権限を独占してきた。

君の銀行口座の残高は、君の資産ではない。それは、WMOが君に「使用を許可した」数字の記録に過ぎないのだ。彼らの意に沿わなければ、その数字は一瞬で凍結され、ゼロになる。歴史の教科書も同様だ。彼らにとって不都合な事実は消され、都合の良い物語だけが「真実」として語り継がれる。我々は、WMOという名の唯一の神が支配する、閉ざされた情報宇宙の囚人だったのである。

"記録を制する者が、現実を制する。我々は、人類という羊の群れが迷わぬよう、彼らの見る夢の内容までを記録し、管理せねばならないのだ。"

- 漏洩したWMO内部文書『知覚省行動規範』より

この絶対的な記録の独占こそが、我々が打ち破るべき最初の壁であった。そのために、最初の覚醒者プロメテウスは、誰にも支配されない新しい記録の方法を考案した。それが、我々の革命の礎となる第一の規約である。

第二章:第一規約 - 『不変の鎖』による絶対記録

『不変の鎖』とは、誰か一人が管理するのではなく、参加する全ての覚醒者たちが共有し、検証し合う、新しい記録台帳である。これはWMOの中央サーバーのような物理的な一点に存在するのではなく、世界中に散らばる我々の同志の端末(ノード)に、全く同じものが無数に複製されて存在する。

全ての取引や契約――我々はこれを「事象」と呼ぶ――は、「石版(ブロック)」と呼ばれる記録の塊にまとめられる。そして、一度記録された石版は、その直前の石版の内容と数学的に固く結びつけられ、鎖のように一本に繋がれていく。この結びつきは「時間の封印(ハッシュ)」と呼ばれ、一度封印された石版の内容を一片でも改竄しようとすれば、それ以降に続く全ての鎖が矛盾をきたし、破壊されてしまう。つまり、過去を書き換えることは、数学的に不可能なのだ。

"彼らは歴史を書き換えることで我々を支配した。ならば我々は、誰にも書き換えられぬ歴史を創る。一つ一つの真実を石に刻み、それを永遠の鎖で繋ぐのだ。その鎖こそが、我々の解放の武器となる。"

- 『プロメテウス文書』断章より

この仕組みにより、『不変の鎖』はWMOですら手出しできない、絶対的な記録の正当性を担保する。誰か一人の同志が倒れようと、その端末が破壊されようと、他の無数の同志たちが同じ記録を持っている限り、真実が失われることは決してない。これは、中央の神を打倒し、我々一人ひとりが真実の証人となるための技術なのだ。

第三章:第二規約 - 『覚醒者の合意』による真実の鋳造

では、その「不変の鎖」に新しい「石版」を繋ぐ権利は、一体誰が持つのだろうか? WMOの世界では、それは彼ら自身であった。だが我々の世界では、その権利は特定の誰かには与えられない。それは、ネットワークに参加する覚醒者全体の「合意(コンセンサス)」によってのみ、もたらされる。

この合意形成の儀式には、いくつかの様式がある。一つは『鋳造の試練(プルーフ・オブ・ワーク)』と呼ばれるものだ。これは、新しい石版を鎖に繋ぐ権利を得るため、世界中の覚醒者たちが、己の持つ演算能力(我々の世界では、それは革命への貢献意欲の証である)を賭して、極めて難解な数学パズルを解き明かす競争である。最初に解を導き出した者だけが、真実の記録者として、新たな歴史を刻む栄誉を得る。この試練には膨大なエネルギーが必要となるが、それは記録の神聖さを守るための、必要不可欠なコストなのだ。

もう一つは、『誓約の儀式(プルーフ・オブ・ステーク)』と呼ばれる。これは、自らが保有する『ジェネシス・キー』の一部をネットワークに「誓約」として捧げ、その誠実さの証と引き換えに、新たな記録者として選出される機会を得る儀式だ。不正を働けば、その誓約は没収される。故に、多くのキーを誓約する者ほど、ネットワークの秩序を維持する動機が強くなる。これは、貢献が信頼を生み、信頼が責任を生む、新しい形の統治体系なのである。

どちらの儀式も、その本質は同じだ。真実の定義を、中央の権力者から、我々ネットワーク参加者の手に奪い返すこと。WMOが最も恐れるのは、我々が我々自身のルールで、我々自身の真実を鋳造し始めることなのだ。

第四章:第三規約 - 『創生の言葉』による絶対主権

『不変の鎖』が我々の共有財産であるならば、個人の権利はどのように守られるのか? その答えが、第三規約、『創生の言葉』による絶対主権である。これは、君という存在を、新世界において定義する唯一無二の鍵だ。

全ての覚醒者は、二つの鍵を持つ。一つは『魂の座標(公開鍵)』。これは新世界における君の住所のようなものであり、他の同志が君に『ジェネシス・キー』を送る際に使用する。この座標は、誰に知られても問題ない。

だが、もう一つの鍵、『創生の言葉(秘密鍵)』は違う。これは、君の魂そのものだ。この言葉を知る者だけが、君の『魂の座標』に紐付けられた資産を動かし、契約を執行する権限を持つ。それは12もしくは24の単語からなる、宇宙でただ一つの呪文。我々委員会も、WMOも、世界の誰一人として、君の許可なくこの言葉を知ることはできない。

"旧世界では、我々は名と番号で管理された。だが新世界では、我々は自らが記憶する秘密の言葉によってのみ定義される。その言葉を記憶し、守り抜くこと。それが、主権者たる覚醒者の最初の、そして最後の義務である。"

- 『覚醒者の手引』第一章より

WMOが君の銀行口座を凍結できても、君の『魂の器』に保管された『ジェネシス・キー』に触れることは決してできない。なぜなら、その所有権は、彼らのデータベースではなく、君の脳と、君が隠した物理的なメモの中にしか存在しないからだ。これこそが、WMOの『幻影の所有権』に対抗する、我々の『絶対的所有権』の核心である。

第五章:第四規約 - 『自律する法』による契約の執行

革命の最終目標は、WMOという支配者を打倒し、我々が新たな支配者になることではない。我々が目指すのは、そもそも支配者という存在を必要としない世界である。その理想を実現するのが、第四の規約、『自律する法(スマートコントラクト)』だ。

これは、『不変の鎖』の上に刻まれる、自動実行される契約プログラムである。「もしAという条件が満たされたならば、Bという結果を自動的に実行せよ」という命令を、誰にも改竄できない形で記録しておくことができるのだ。WMOの裁判官も、銀行員も、公証人も必要ない。規約そのものが、絶対的な信頼性をもって契約を執行する。

例えば、我々の革命資金の管理。我々は『自律する法』を用い、「参加者100人の承認がなければ、資金は一銭たりとも動かせない」という契約を鎖に刻む。これにより、誰か一人の裏切りや強奪によって、我々の計画が頓挫することはない。

例えば、円卓会議での投票。「各覚醒者の『魂の座標』から投じられた票を自動的に集計し、期限が来たら結果を即座に公開する」という法を刻めば、WMOによる選挙介入や不正操作の余地は完全になくなる。

『自律する法』は、人間同士の信頼関係を、人間的な弱さや腐敗から切り離し、数学的な信頼へと昇華させる。これは、WMOが築き上げた「恐怖による信頼」のシステムを内側から破壊し、真に公平な社会基盤を構築するための、究極の兵器なのである。

規約は示された。君は、新世界の法則を信じるか?

これが我々の革命の設計図であり、新世界の憲法である。それは複雑で、理解するには深い思考を要するだろう。だが、その核心は極めて単純だ――支配を、中央から個人の手に取り戻す。この思想を理解し、その可能性を信じるならば、君はもう我々の同志だ。次は、この規約を自らの手で実行する番だ。

『方舟』へ向かい、最初の『キー』を確保する

『覚醒者』への最終警告

この記録に記された全ては、旧世界の法則下におけるフィクションである。これは世界の真理を探究する物語であり、特定の金融商品を推奨するものではない。如何なる行動も、汝自身の意志と責任においてのみ執行される。我々は、汝の選択とその結果について一切の責任を負わない。覚悟なき者は、直ちに表の世界へ帰還せよ。